*石徹白(いとしろ)に通う釣り人から寄せられた“声”の数々を紹介するページです*
▲キャッチ&リリース区間
▼フィッシャーズ・ボイス【2009】
【2008年以前】
フィッシャーズ・ボイス【1】
★ITOSHIROの恵み
愛知県在住 A.Y.さん
人が多い渓はゴミの量も多いのに、C&R区間には釣り人のゴミはほとんど無かった。この区間は川へのアプローチが容易で、ハイシーズンには多くの釣り人が訪れる。はっきり言ってどこもかしこも人だらけだ。けれど、溪を歩いて拾うゴミに釣り人の残したものは皆無に近い。繰り返しここを訪れる釣り人が、C&Rの恩恵をよりよい形でこの先も残したいと願うからなのだろう。ITOSHIROの恵の一つ。
また、C&R区間には魚が多い。魚が多くても、管理釣り場のように、放流間もない渓のように、魚が釣れるというわけではない。もちろんハイシーズンには、いともあっさりと釣れる魚も多い。けれど、プールに張り付いて動けない釣り人も多く見かける。テペット、フライ、流し方など、多くの要因を検討し変更する。バイトさせるまでのアプローチを楽しむ。FFの面白さの一つ。悩ましき至福の時間。魚が多いからできる余裕。二番目のITOSHIROの恵。
C&Rと石徹白の流れのポテンシャルに裏付けされた再生産により魚は着実に増えている。そして魚のコンディションがいい。流れを走りジャンプするスーパーイワナを語るとき、釣り人の目は輝き、それを聞くこちらも心が躍る。数年前、数十年前まではよかった渓の話は、釣り人が恍惚として語る時間に比例して、聞いている側をうんざりさせる。けれども、ここITOSHIROでは今この瞬間の話なのだ。今日のマヅメどきの話なのだ。釣り人は互いにその日の情報を交わし、また別のポイントへ去っていく。先行者があっても、時間が空けば釣れるから気持ちもゆったりとして会話も弾む。ITOSHIROを通して仲間が出来る瞬間。ITOSHIROの恵みの行き着くところ。
★扉をあけてくれた石徹白
愛知県在住 A.I.さん
プールでのライズなんて、ハナっから取れると思っていなかった。
毎週のように通う地元の渓でも、プールの魚たちは僕の雑な毛鉤なんて見向きもしなかったから…。
ましてやここは石徹白・峠川C&R区間…僕はいつもより少しだけサイズダウンしたパラダンで、いつものように(プールはスルーして)瀬をハイピッチで釣り上がっていた。
『やっぱり難しいわ、こりゃ』想像以上に渋い反応に、夕刻を前にすでにあきらめモードになりかけていた時、目の前のフラットな水面に水しぶきが上がった。
『ライズだ!』
どうしてなのかはわからない。ただ、この瞬間に、いつもなら”スルー”を決め込むはずのライズを絶対に取ってやろうと思った。
CDCダンを#22までサイズダウンした。もっと小さなグリフィスナットも試した。でも、ライズリングは決まってそのすぐ脇の“ホンモノの虫”を中心に広がった。
そのとき思い出したこの日ここで出会ったベテランフライマンの言葉…『ここの魚は毎日たくさんのフライを見てるから』
ゴソゴソとベストのポケットをまさぐり、自分でも巻いたことを忘れていた小さなスペントパターンをそっとプールの流れ込みに送り込んだ。
すると石徹白の美しく力強いアマゴは、今度はちゃんと”ニセモノの虫”を口にした。
気がつけば、このプールで1時間以上の時間を過ごしていた
そして辺りが闇に包まれるまでの時間を、今度は別のプールで過ごした。
あのとき、なぜあのライズに魅入られたのかは今もわからない
でも、ただ一つはっきりと言えることは、あの日の石徹白のアマゴは、フライフィッシングの魅力がぎっしりと詰まった新しい部屋の扉を僕に開けてくれた、ということだ。
★石徹白峠川C&R区間
岐阜県在住 R.K.さん
C&R(キャッチアンドリリース)という言葉さえもしらない、過疎化が進むこの土地でC&Rという釣った魚を逃がすという区間を設置するために活動した「在来渓魚を増やす会」(私もこの一員として一緒に活動をともにさせてもらった)。 地元住民に理解してもらってこそ、このC&R区間は成功すると考え、石徹白漁協を中心に地元住民の協力を求めた。石徹白地内にC&Rの看板を設置し、年一回のイベント「フィッシャーズホリデー」を石徹白漁協、地元住民とともに開催した。
「フィッシャーズホリデー」は平成19年度の開催を見送ったが、このとき地元の方々から残念がる声が上がり、地域でのC&R活動が石徹白に根付いてきたように感じられた。 自然再生産にこだわり、稚魚放流のみでスタートした形態は今も変わらず続いている。時には、釣り人達から「魚がいない。成魚放流すべき。」との意見も聞かれたが、あえてこのスタイルにこだわり続けてきた。実際、僕が釣りをして感じたことは、ヒレピンの天然魚が悠々と泳いでいるということ。 この天然魚を求めて多くの人が訪れる石徹白峠川は、まさに昔の姿を取り戻した里川といえるだろう。そして、皆さんの優しい心(釣ったら逃がす)でこのような渓流が日本全国に増えていくことを願っている。
★石徹白からの贈り物
愛知県在住 T.I./F.I.ご兄弟
ニュージーランドから来た友人が「山の中に隠された宝石」と言って讃えた石徹白。この川は私にとっても、まさに「宝石」以上の存在だ。
昨年から本格的に渓流でのフライフィッシングを始めた私と弟は、釣りに使えるほとんどの時間をここで費やした。私達のようなビギナーにも、この川は全てを与えてくれた。歓喜、感動、屈辱、無力感。フライフィッシングの楽しさも、難しさも全てこの川から教わった。そんな石徹白で過ごした日々の中でも、特に忘れられない一日がある。
5月のある日、いつものように石徹白に向かった。高揚感を抑えきれずに、ややオーバースピード気味で峠道を下ると、あっという間に駐車場に着いた。車から降りてみると、やけに肌寒く、釣り支度をしていると雨まで降り出した。嫌な予感はしたが、釣り場は目の前だ。急いでレインウェアを羽織ると勇んで流れの前に立った。
「おかしい」「こんなはずじゃ・・・」。こんな言葉を繰り返しながら、気がつけば4時間が経っていた。川からの反応があまりにも乏しい。先週まであれほど生命感に満ちていた流れが沈黙している。もちろん自分の技術の拙さもある。それは十分すぎるほど分かっているのだが、そんな未熟な私達にも優しい顔を見せてくれていたこの川だからこそ、急な手のひら返しに少々理不尽な怒りが沸いてきた。なんとかニンフで一匹釣り上げると、そこで早めの昼食にすることにした。
食事を終え、今度は少し下流のポイントに入った。そこはC&R区間の中でも特に開けた場所で流れはフラットだ。しばらくすると雨は上がったが、強い風が吹き出した。「風まで出てきたか・・・」と舌打ちしていると、目の前でライズが起こった。かなり派手なライズだ。すぐにまた別の場所でもライズした。気がつけば、目の前の流れがライズだらけだ。なにが起こったのか、すぐに状況が飲み込めない。ライズはどんどん数を増していく。ふと周りに目をやると、そこら中にオレンジ色のボディーに白いリブが入ったカゲロウだらけだ。そいつらが風に吹かれて、ぼとぼと流れに落ちる。魚が我を忘れて貪り食っている感じだ。フライをオレンジ色のCDCとエルクヘアで巻いた♯12のフライに換えてキャストした。一発で食った。そこからはワンキャスト、ワンフィッシュ。下流で釣っていた弟の方を見ると、バシバシ釣っている。こっちを見て興奮気味に何か叫んでいるが風で聞こえない。どうやら奴のところでも同じ現象が起きているようだ。夢のような時間は正味20分程で収束に向かったが、その短い時間でお互い6,7匹のアマゴやイワナを釣った。祭りが終わり、お互いの状況を、鼻息を荒くして報告しあった。弟も結んだフライは同じだったらしい。
今まで本で読んだことしかなかったスーパーハッチに、始めたばかりの自分達が遭遇できるなんて夢にも思わなかった。家に帰り、すぐに本であの虫の事を調べた。どうやらオオマダラカゲロウという名前らしい。そして単細胞な私達は、あのフライをボックスいっぱいに巻いた。またいつか川からの素晴らしい贈り物があることを願って。
▼フィッシャーズ・ボイス【2】